2019/04/23

坂倉準三

いまを去ること数十年前、かの岡本太郎が例の独特なポーズをとり、目をむいて「芸術は爆発だぁーッ!」と叫んでいた頃、スキーグラフィックというスキー雑誌の取材で南青山にある岡本太郎邸へ撮影に伺ったことがあった。住まいとアトリエ兼用の、通りに面した庭の鬱蒼とした樹木に囲まれた邸宅だった。が、いわゆる一般の住宅とは一線を画す構えの建物だったから、やはり岡本太郎さんがご自分で設計にかかわったのですか、と秘書の女性に尋ねたら「いいえ、坂倉準三さんが設計なさいました」と教えてくれた。とはいえ初めて耳にする坂倉準三という名前をすぐに理解できるほどの知識も持ち合わせていなかったからそのはなしはそこで終わり、坂倉準三という名前だけが記憶に残った。
そして居間からアトリエに移動して例のポーズで数ショット撮影したのだった。

こないだ鶴岡八幡宮の境内にある平家池のほとりに「鎌倉文華館」という聞き慣れない施設がプリオープンされたというので、いったい何の施設なんだろう、と偵察に行ってきた。

そもそもこのたてものは「かまきん」とよばれていた県立近代美術館。不肖佐助庵、自慢じゃないが美術のことなんてなんにもわからないからよほどのテーマでなければ鑑賞に行くこともなかった。けれどもいつも参道を通る度に、古(いにしえ)からある神社にそぐわない白い建物はごくあたりまえの風景として目に残っていた。
設計したのは坂倉準三。かまきんは日本の近代建築の傑作、なのだった。

……というわけで、美術館の閉館後県から建物の寄贈をうけた鶴岡八幡宮が、大切な建築遺産をむげに取り壊すわけにはいかないとほぼそのままのかたちで苦節三年の改装、耐震工事を経て6月から再び本格的にオープンするそう。が、境内にはすでに「鎌倉国宝館」という市の施設もあるわけだから、鎌倉文華館がどんな位置づけになるのか佐助庵的には見当もつかない。
なにもかも新しくなってしまった坂倉準三の遺産だけれど、ピロティの天井には、かつてのかまきんの面影と同様水面の反射光が美しい光の文様を描いていた。
吹き抜けに大きな壁画のあった学食風のカフェ、いや喫茶室が妙になつかしかった。
あの壁画はどこへいったのだろう。

photostream :
https://www.amazon.co.jp/photos/share/zeXxga03QmEbQT2PYPXBsJUcTCD0ViO33iUkVoQgVlL