2011/03/30

原発異聞(怒

先日の取材で苗場の宿に入ったときの出来事。
駐車場に福島ナンバーの小型車が二台並んでいます。到底スキーを楽しみに来たとはおもえない作業用の小型車です。ロビーに入ると囲炉裏では二組の子供連れの若い夫婦がくつろいでいます。「あ、家族旅行か、楽しそうだな…」とおもって様子をうかがっていたのです。ですがその家族は快晴の朝になってもスキーに出かける素振りさえなく、こちらが取材から帰ってきたときもスキーを楽しんだ様子も見当たりません。

聞けば福島原発の放射能汚染から避難してきた家族なのでした。スキー場の宿泊施設に分散しての避難です。とりあえず住むところは無事だった。が、大気が汚染されているためそこで生活してゆくことはできない。仕事をすることもできない。なにげない家族団らんの風景。けれども、何かしなければならないのに、なにもしないで一日を送らねばならない若夫婦の不安と苦悩はいかばかりなんだろう。ここでもまた、現実を目のあたりにしながら、なにも手助けさえすることのできない無力な自分がいたのでした。

寒い日と暖かい日が一進一退でせめぎあっています。
庭先でいつの間にかラッパ水仙が風に揺らいでいる。
春はこれからです。

2011/03/25

岡田利修と吉岡大輔

スプリング ハズ カム。
春がスキップしてやってきます。早く暖かくなって避難している方々が暮らしやすい気候になってほしいですね。
雪はふんだんにあるけれど、いろいろな事情ですでにクローズしてしまったスキー場も少なくありません。スキーをメインに撮影するフォトグラファーにとっては、けれども「ハイ、ソウデスカ」というわけにもいかない。天候が安定して、技術選を消化したスキーヤーたちのスケジュールに余裕がある今こそ絶好の撮影シーズンといえましょう。後ろめたさを一身に感じながらも雪上の撮影は続きます。

撮影したスキーヤーは、15日からは岡田利修選手、そして22日からは吉岡大輔選手。全日本スキー技術選手権で常にトップをうかがおうというライバル同士です。
ふたりを初めてフレームにおさめたのはまだアルペンスキーのWCサーキットを舞台に活躍していた頃。岡田利修は2006年のラウバーホルンとハーネンカムのスラロームで、吉岡大輔は2005年ボルミオの世界選手権と翌年のトリノ冬季五輪の大回転で、それぞれフレームにおさめることができたのでした。もちろんつきあいはあくまでもレンズを通してのみ。目が合えば目礼する程度だった。

巡りめぐってふたりとも現在は「技術選」を舞台に切磋琢磨するスキーヤーへと変貌を遂げました。周知のように今シーズンの技術選は東北関東大震災で犠牲に遭われた方々に弔意を表し準決勝で中止となり、その時点で総合成績も決定してしまった。
奇しくも利修と大輔は仲良く肩をならべて5位タイ。種目別では利修はフリー(総合滑降)で1位に、大輔は整地大回りでトップを奪取した。総合優勝も十分に視野に捉えた好位置だっただけに大会の中止はさぞ残念だったろうと思います。が、ふたりともそんなことはおくびにも出さず、ときならぬ大雪の降る悪雪のバーンで、白いじゅうたんを敷き詰めたような快晴のバーンで、日が暮れるまで見事なスキーテクニックを存分に披露してくれたのでした。さすが歴戦のスキー巧者です。おかげで撮影も順調に消化。フォトグラファー冥利につきる取材行だった。

2011/03/13

全日本スキー技術選手権は中止( 3/21 追記

なによりも被災された方にお見舞いを申し上げなければいけません。
どうか心を強く持って復興に励んでいただきたいと切に思います。
今の自分にはひとりでも多くの方々の無事を祈ることしかできない。

宮古市に実家がある友人がいます。
父親は無事が確認されたのですが、お母さんとはいまだ連絡が取れていないそうです。彼女は現在新潟を回って秋田経由で宮古に入ろうと懸命の努力を続けています。
どうか家族のみんなが無事であって欲しいと。

雪山で取材をしているといつもこうした悲痛なニュースを山の中で知らされます。
阪神大震災の時はイタリアのコルティナ・ダムペッツォでワールドカップの取材中。ホテルでの朝食時にイタリア人の夫婦から知らされました。早口のイタリア語ですから最初はなんのことかさっぱりわからない。慌ててプレスセンターに入ってようやく悲惨な情況が判断できたのでした。
ダイアナさんの事故の時は帰国前夜、奇しくもNZのクライストチャーチにいました。先の地震で崩壊した大聖堂の右手にあるホテルに宿泊し、朝、タクシーで空港への道中、ふと気がつくと街の主だった施設にひるがえっている国旗がどこも半旗だったのです。空港に着いて警備中の警官に聞いてみると「プリンセス・ダイアナが…」と悲痛な表情です。
そして0911NYテロ。このときはやはりNZのマウントハットにいました。麓のメスヴェンに下山してTVをみると「ニュージーランドの人々がNYで数十人死亡…」とブレーキングニュースで流れています。映像を見続けているうちに悲惨なテロだったと思い知らされました。

11日の大震災は八方で。
雪の上で動き回っているから地震があったことは全然気がつかなかった。ふと他の用があって携帯でダイヤルすると何度かけても「接続失敗」のメッセージ。レース後にゴールエリアまでおりてようやく地震のニュースを知ったのでした。














全日本スキー連盟の迅速な判断で、大会は準決勝までの成績をもって結果とすることになり、即日中止という決定がなされました。一年間、さまざまな思いを持ってこの大会に照準を合わせてきた選手たちの悔しい気持は痛いほど理解できます。大会前から苦心惨澹見事な競技バーンをつくりあげた白馬のスタッフの気持ちはいかばかりだったか。が、「中止」というSAJの決定もまたきわめて妥当であったと、心底理解できます。選手たちはまた一年、雪辱の悔しい思いをもって来シーズンこそ決勝なんだとトレーニングを積み重ねていかねばならない。

でもね、そうした気持ちの持続こそ素晴らしい結果につながるのではないかと思いませんか。

佐助庵に帰りついてじっとTVを見続けていると、被災された方々の惨状が繰り返し映しだされます。涙がとまりません。男のくせにとお思いでしょう。どうかお笑いください。

<3/21 追記>
グッドニュースとバッドニュース。
宮古の友人のお母さん、無事だったと知らせあり。実家が高台にあったから津波に流されずにすんだと。
ですが、宮城県の角田市に住んでいる友人の家は罹災。かつて一緒に仕事をした仲間です。寒さにうち震える二人のお嬢ちゃんを連れて実家のある猪苗代経由でようやく妙高の親戚宅に避難した様子。彼女も家族は全員無事だった。そのことが何よりもうれしい知らせだった。

2011/03/10

宙を飛んだスキー(改

全日本スキー技術選手権大会。迎えて48回目の大会、白馬、八方での開催です。
いよいよ本選に入り、今日はクォーターファイナル。
朝方の猛烈な雪降りもどこへやら、天候はすっかり回復しました。
セントラルコースでの急斜面整地小回り。…のはずだったのですが、昨夜来の雪でコースバーンはかなり柔らかくなっていて、ちょっとした悪雪急斜面のショートターン。さすがは地方予選を勝ち抜いてきた名手ばかり。全員なんの苦も無く雪面情況に合わせゴールしてゆきました。たった一人を除いて…。
その選手はコースサイドのネット際を勢いのある小回りでおりてきました。が、柔らかいコースにスキーをとられてバランスを崩し、転倒。そのあおりでスキーが外れ、こともあろうにコースの外にいた自分めがけて宙を飛んできたのでした。とっさの判断でカメラを守るのが精一杯。主を失ったスキーは背中に激突し、その選手のスキーはウェアはおろかアンダージャケットまでエッジで切り裂いたのです。幸いにしてからだはちょっとした打撲だけですみましたから、レース後は宿に帰って温泉で消毒、ついでに口の中もビールで消毒したのでした。

ー追記ー
知人のフォトグラファー、マッシーこと真嶋和隆さんがその瞬間の写真を送ってくれました。これをみるとどうやら自分にあたった後スキーがはずれて宙を舞ったと。
ウェアがクッションになって、極めて軽い打撲ですみました。心配をおかけしました。
photo by Kazutaka Mashima

2011/03/07

雪の朝

朝、目を覚まして窓をみやれば雨がしのついています。
このところしばらく真冬の寒気が続いていたのだが、今朝はいくぶんやわらかい寒さ。
きっと南からきた雨なのか、とおもったらいきなり雪になりました。
鎌倉はすっかり雪模様です。

これから山へ入るというのに・・・

2011/03/05

痛恨の・・・

アルペンスキー世界選手権の余韻も去り、サーキットはすでにブルガリア、バンスコでのレースを消化、今日からスロヴェニアのクラニスカ・ゴーラで大回転と回転のレースが始まります。総合優勝を見据えたイヴィーツァ・コステリッチのコンディションや如何に。さらに湯浅選手が最終戦に出場する資格を得る最後のチャンスゆえはなはだ興味深いレース。が、残念ながら白馬で全日本スキー技術選の撮影に入らねばなりません。

きょうは自戒の意味を込めて痛恨のショットを…
大会2日目の男子スーパーG。ポジションフィックス。FISチェッククリア。定刻通りにレース開始。レーサーたちは順調に、意図した通りにファインダーをよぎってくれます。が、12番スタートのボーディ・ミラーが過ぎたとき突然森の後ろから太陽が姿を現しました。それはそれは見事な真逆光。高速系のレース中だからコース内の移動は厳禁です。2位のハンネス・ライヒェルトはかろうじてセーフだった。が、優勝したクリストフ・インナーホファーはアウト。写真は3位に入ったイヴィーツァ・コステリッチ。これでも自分の持てるスキルを尽くして補正したのだが…。
逆光といえば、2年後に世界選手権の開催されるシュラートミンクも逆光の名所。現在はワールドカップの開催は唯一ナイトレースだけだから気にもしなかったのだが、これは要注意だな。

2011/03/01

復帰宣言

バーゼル在住の畠山喜代子さんからのニュース。

先日幕を閉じた世界選手権において突如滑降とスーパーコンバインドをキャンセルしたカルロ・ヤンカですが、2月22日に心臓カテーテルでラジオ周波による脈拍の調整という手術を受け、経過もよく目下リハビリ中ですが、この週末のクラニスカゴーラには出場のプランとか。
また、カンダハーで開催されたチームイヴェントで靭帯断裂の重症を負ったベンジャミン・ライヒは来季は復帰すると宣言したそうです。

ひるがえって日本のエース、佐々木明。けがをひきずったまま、先週末にブルガリアのバンスコで開催されたワールドカップ回転に出場しました。どんな事情があるのかはうかがい知れませんが、オーストリア、スイスの両エースのように、けがを完治して力強い復帰宣言を聞きたいものです。